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A Tribute To Baden Powell
and Antonio Lauro
伊東忍 with 橘佳子 ,
ジャッキーK , YAYOI
JAZZBANK/MTCJ-1049 (2002) |
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ニューヨークで活躍するギタリスト兼作曲家の伊東 忍が完成に一年を費やした会心のプロジェクトがここに登場した。
南米を代表するブラジル生まれのギタリスト,バーデン パウエルとギターのための作品を数多く残したベネズエラ生まれの作曲家アントニオ ラウロへのトリビュート作品である。
バーデン パウエルはブラジルの詩人、ビニシウス ジ モラレスと共に数多くの作品を残し、アフロサンバと呼ばれる独自の音楽世界を創り出した天才であった。いわゆるボサノバギターとは一線を画した、力強くプリミティブで即興的な要素が多く呪術性さえもった彼のギター演奏は、まずジャズの世界で大きな注目を集め、いまや全世界で彼の業績を評価しない人はいないと思われるほどの存在になっている。
私見であるが、全ジャンルのギタリストを歴史的に俯瞰して、バーデン パウエルはジャズのチャーリー クリスチャン、ジャンゴ ラインハルト、クラッシックのアンドレ セゴビア、ロックのジミーヘンドリックスと並び称される、「オールタイム ギタリスト ベスト5」の一角を占める巨匠である。
彼は2000年9月に惜しくも63歳という若さで亡くなったが、死の3年前に日本を訪れ、二人の息子、ギタリストのルイス マルセル パウエル、ピアニストのフイリッピ パウエルと共に「アフロ幻想曲」(PADDLE WHEEL)を録音したことは記憶に新しい。彼の遺作が日本で製作されたことに、我々は彼との強い絆を感じ取ることができる。
アントニオ ラウロは1917年ベネズエラに生まれた現代クラッシックギターの作曲家であり、とくに「4つのベネズエラ ワルツ」を始めとする南米情緒豊かな作品群は、数多くのクラッシック ギタリスト、特に一番弟子であったアリリオ ディアスによって紹介され、いまやクラッシックギターの重要なプログラムを飾るレパートリーとなっている。
本作は伊東 忍がずっと愛奏してきたバーデン パウエル、アントニオ ラウロの作品に加え、メキシコ生まれで、やはりクラッシックギターの重要な作品を残したマニュエル ポンセの<エストレリータ(小さな星)>や近代スペインの作曲家ホアキン マラッツの代表作で近代ギターの開祖、フランシスコ タレガの編曲でギターのレパートリーとなった<セレナータ エスパニョーラ(スペイン風セレナーデ)>、そしてバーデン パウエルのよき友人でもあったアントニオ カルロス ジョビンの作品でバーデン パウエルの名作のひとつ「ソリチュード」でも演奏された<ポル コーザ デ ボーチェ>といった作品がおさめられている。
また特筆すべきは冒頭の<プロローグ>をはじめ、バーデン パウエルとアントニオ ラウロへのオマージュとして伊東 忍の4つのオリジナル作品をおさめていることである。しかも<プロローグ> はラウロ風なギターソロであるが、他の曲はいずれもシーケンサーを使った、いわゆるジャズフュージョン タッチの作品となっていることである。
これらはジャズサイドから、彼等の影響を受け止めた解答として、きわめて興味深い演奏といえるだろう。
世界で初めての企画となったバーデン パウエルとアントニオ ラウロへのトリビュート作を完成させた伊東 忍は1951年1月28日神奈川県生まれ。12歳から父親からクラッシックギターのレッスンを受け、将来は音楽家になるべく研磨を重ねた。
高校時代にウエス モンゴメリーを聴きジャズギターに興味を持ち、東海大学のジャズ研究会に所属しながら潮先 郁男に師事した。
1975年 ロスアンジェルスに半年ステイし、そのときアメリカの文化、風土に大きなカルチャーショックを受けアメリカ永住を決意した。いったん帰国して、いまは亡き女性ボーカリスト、木村 好子の伴奏者として活動を続けるかたわら、中村誠一、向井滋春,土岐英史、植松孝夫といった第一級のジャズミュージシャンと交流を深め、共演を重ねた。
そんな彼の日本滞在時代の旧友たちとの再会セッションである『ワン ライフ トゥー ライブ』(JAZZBANNK)を2001年に発表して話題となった。現在もニューヨークを拠点に演奏、作曲で活躍を続けている。
柳沢 てつや
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ギターマガジン2003年1月号より転載の記事
伊東 忍はニューヨークを拠点に活動しているギタリスト兼作曲家。本作は,ブラジル音楽を代表する重鎮ギタリスト=バーデンパウエルと,現代クラッシック ギタリストの作曲家であるアントニオ ラウロの両名に捧げられたトリビュート作品だ.収録曲の大半はガットギターを用いたソロ演奏。上記二人の代表曲を始め南米出身の作曲家たちの作品、そして自身のオリジナル曲で構成されており,CD全体から受ける印象は南米系クラッシックギターの良質な作品集といった趣。クラッシックギターの演奏はメチャ上手で技巧面も申し分ない…が、なによりも彼の南米音楽に対する愛情と思い入れが感じられる点が好印象。癒し系CDとしてもお薦め…と言ったら失礼か?
安東 滋
Swing Journal Jan/2003より転載の記事
ニューヨーク在住のギタリスト伊東 忍は,鈴木良雄との共演などで着実に自身の個性を確立させてきた。そして到達したのがバーデン パウエルとアントニオ ラウロの世界だ。ラテンも含めたトロピカルなムードに触発されているところのあった彼である。それだけにここではこれまで以上に持ち味が発揮されることになった。とは言え、この作品はいわゆるボサノバを取り上げたものとは違う。もっと広い意味での南米音楽を伊東ならではのテイストで表現したものだ。フュージョン風のサウンドも、その世界を広げる重要な薬味である。
小川 隆夫
JAZZ LIFE January/2003より転載の記事
ニューヨークを拠点に活躍するギタリスト伊東 忍が、ブラジル生まれの天才ギタリスト、バーデン パウエルとベネズエラ生まれの作曲家アントニオ ラウロに捧げた作品。二人の曲はギターソロで演奏が、それ以外にも伊東のオリジナルを始め現代ギターの興味深い曲を取り上げている。面白いのは伊東のオリジナルがシンセやシーケンサーなどを駆使してクラッシックの影響を見事に現代的なセンスでしょうかしている点だろう。クラッシックへの憧れとコンテンポラリージャズが渾然一体となっており、エピローグ的に演奏されるジョビンの(14)がこれらの様々な音楽性を見事なまでに一つにまとめあげており、実に爽やかな印象を残してこのアルバムを締めくくっている。
星野 利彦
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